【いさび交遊録】 第04話
登場人物:秋元悠輔・清水隆弘・松島由峻・村上翼
いさびの会のメンバーはかなり共通点が少ない。もしかすると全員に一致
する点など、呼吸をするとか燃えれば死ぬとかそういった生物学的必然し
かないかもしれない。
松島が突如として、新宿西口のオフィス街で乞食ごっこをはじめたのはい
つの頃だったか。定かなのはその日は小雨がぱらついていたということ、そ
してその場に清水と村上がいたということだけである。
三人は――もしかするとそこにはもうひとり、いさびの会とはあまり関係の
ない男がいたかもしれない。しかしこれは「いさび交遊録」であり、彼の出番
はない――正午頃のオフィス街を並んで歩いていた。
突然、何の前触れもなく、松島がかがんだかと思うと彼はいきなり立派な
オフィスビルの入り口の脇に座り込んだのだった。傘が顔を隠していた。一
瞬の出来事だった。勿論、同行者への断りなんてない。
清水と村上は松島の奇行には慣れっこだったから、立ち止まって彼を見つ
めた。とりあえず村上は鞄に入っていたカメラでその姿を写した。秋元に見
せるつもりだった。ちなみにその写真は今でも村上の家のどこかにあるはず
だ。
暫くすると昼休みになったらしくビルからは沢山の人が出てきた。当然のこ
とながら誰もが傘をさし座り込んだ半ズボンの男にぎょっとし、凝視し、すぐ
に視線を外した。清水は見てはいけないものを見た、という人々の表情を始
めて見た。例外はなかった。誰もが戸惑った顔をしていたれを見た松島は
帽子を取り、道に置いた。外国。国際企業のオフィスも入っているらしく、外
国人も多かった。そ人た。しかし小銭を一円たりとも放り込む者はな=チッ
プの習慣=乞食に施し、と彼の頭が動いたのがふたりには見えかった。暫
しの時が流れ、ビルから出る人の波が絶えた。
松島はつまらなさそうに立ち上がると帽子を被りなおした。
3人はまた物欲しそうな顔をして哀愁漂う西新宿を歩き始めた。
第05話に続く