手帖 2004 T
秋元汀
半期に一度もよおされる、最先端をになっているともっぱら膳立てしているらしい、渋谷のとある美術オークションに、さて足を運んでみたものの、例によってまったくお話にならないものであったことをここに報告しておこう。実見・仄聞からして、あきらかに一部の画廊の《売れ残り蚤の市》といった具合で、挙句定価(相当の価格)がエスティメイトになっていて、あきらかに地方の訳のわかっていない金持ちをターゲットにしているようだ。そもそも入札式の方法をとって、あきらかに入札率を上げているようで、どう転んでも90%はいかないだろう。
だいたいピエール・モリニエと赤塚不二夫が同じ作品として軒をつらねているのが、慙愧に耐えがたい。モリニエもモリニエで、あきらかに正規エディションに準じぬ、モダン・プリント(後刷り)のたぐいで、アトリエのスタンプさえ入っていない、たとえてみればハンス・ベルメールのポンピドゥー版モダン・プリントの出来損ないを市場に廻したようなもの。
さて、そのような惨憺たる、《蚤の市》らしかぬ、《おけらおどし》の祭騒ぎのなか、当方のお目当はヴィフレド・ラムのエッチングの一枚であったが、残念ながらあまりいい絵柄ではなかったため、入札は控えた。ラムの、どこか、遠い古代人たちが、なかば真摯に――それゆえにわたしたちにニーチェ的な《笑い》をひきおこさずにはおれぬ、現代人がそれを嘲笑するにどこか後ろめたい、そのような笑い――祀ってきた異邦人のような偶像を描いたものがぜひとも欲しい。その後、オランダのとあるネット・オークションで池田満寿夫初期のエッチングの試し刷りを20EUROで購入。海皮のものもそうだが、とくに日本の作家のものさえ、とても日本では買う気がしないというのはなんとも淋しい話ではある。今度、某県にあるギャルリでエスティメイトなしのオークションがあるので、そこにはぜひとも足を運びたいというもの。でたとこ勝負の成り行きまかせでカタログもなにもないものの、掘り出しものを探るという意味で、なんとか成果を発表したいものだ。
(公開開始日・六月二十日)
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頓首。
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